中居正広&フジテレビ攻撃から文春バッシングへ! 人はどうして「キャンセル」に魅せられ、破壊へと突っ走るのか?【仲正昌樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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中居正広&フジテレビ攻撃から文春バッシングへ! 人はどうして「キャンセル」に魅せられ、破壊へと突っ走るのか?【仲正昌樹】

キャンセル・カルチャーの真実「破壊することは果たして正義か?」

産経,笑福亭鶴瓶
笑福亭鶴瓶

 

■笑福亭鶴瓶がスシローのHPから削除された!

 

 また、フリーの記者も参加した一月二十七日の記者会見では、質問するのではなく、延々と自説を語る人や、既に他の人が出した同じ質問を繰り返す人、野次る人など、プロとは思えない行動を取る人が少なくなかった。中には、被害者とされる女性の名前を特定しようとする人までいた。

 その人たちは、フジテレビ側が、その女性が誰か特定できそうな具体的なことを語ったら、間違いなく、セカンドレイプだと言って騒ぐだろう。フジテレビが隠蔽体質だと糾弾するために、被害者の女性を利用しようとしか思えない。数年前から芸能人の性的スキャンダルをめぐる騒動でも同じような傾向が見られるが、特に今回の騒ぎで、フジ潰しに動いている人たちは、被害に遭った本人が本当はどういうことを望んでいるかをほぼ無視している。本人が名乗り出てないのだから、被害者探しはやめよう、という声さえほとんど聞こえてこない。

 キャンセルはフジテレビだけでなく、そもそも本当に関係あるのか疑わしいところまで飛び火している。問題の接待があったとされる日の数日前に中居氏とのバーベキューに参加していたことから、ヒロミ氏と笑福亭鶴瓶氏も事件に関与していたのではないかとの憶測が生まれ、鶴瓶氏がスシローのHPから削除される、という事態にまで至っている。

 企業にとって大事なのは、悪い噂が真実であるかではなく、噂がネットで拡散しているような団体や人物と付き合っている、不誠実な企業だと消費者に思われるかどうかである。近年では、SNSでの炎上が自社にまで影響が及びそうな兆候があると担当者が感じただけで、タレントの契約を打ち切る企業が現れ、それが契約解除の連鎖を引き起こし、その連鎖がSNSでの炎上を増幅させる、というスパイラルが生じることがしばしばある。それが、日本のキャンセル・カルチャーだ。

 フジテレビのCMからの撤退については、「フジに真相を明らかにさせる圧力になる」といって擁護する声もある。しかし、先に述べたように、視聴者やSNS論客たちが知りたいことの全てを明らかにできるわけではないし、それが二次被害に繋がる恐れもある。そもそも、企業がフジテレビに真相を明らかにさせるための圧力としてCMを取り下げているという想定が疑わしい。企業が消費者、公衆への説明責任を重視しているのなら、黙ってCMを取り下げるのではなく、フジテレビに何をしてほしいのか明言しているはずだ。

 何故はっきり要求を掲げずに、こっそり取り下げるのか? 理由は明らかだ。自分たちの要求する水準でネット民・消費者が満足しなかったら、自分たちに矛先が向かってくる可能性が高い。また、その企業自体のコンプライアンスや危機対応能力への関心が集まり、痛くもない(はずの)腹を探られることになりかねない。目立ってしまって、言質を取られるようなことはせず、他の企業と横並びの反応をするのが無難だ。

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仲正 昌樹

なかまさ まさき

1963年、広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。現在、金沢大学法学類教授。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。古典を最も分かりやすく読み解くことで定評がある。また、近年は『Pure Nation』(あごうさとし構成・演出)でドラマトゥルクを担当し、自ら役者を演じるなど、現代思想の芸術への応用の試みにも関わっている。最近の主な著書に、『現代哲学の最前線』『悪と全体主義——ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)、『ヘーゲルを超えるヘーゲル』『ハイデガー哲学入門——『存在と時間』を読む』(講談社現代新書)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(作品社)、『思想家ドラッカーを読む——リベラルと保守のあいだで』(NTT出版)ほか多数。

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